事業承継の前に起きる「もう一つの経営リスク」——社長の“判断機能”は、会社のインフラです

関係先で実際に起こったことですが——
ある組織で、トップが任期中に突然辞任する、という出来事がありました。

経営幹部たちも含め、周囲は混乱しました。
「何が起きたのか分からない」「後任はどうするのか」
現場は“しっちゃかめっちゃか”になり、部下たちは困り果てていました。

後から振り返ると、兆候はありました。むしろ、いくつも。

  • 判断を迫られると、急に無言になってフリーズする
  • 物忘れが増え、同じことを何度も確認する
  • 「やる」と言ったことが段取りできず、期限を超える
  • とにかく決断から逃げる
  • ぼんやりしている時間が増える

周囲から見ると単に「困ったボス」で片づけられがちです。
でも、現場にとって本当に困るのは、人柄ではなく——

意思決定と実行が止まることなんですよね。

そしてここで言いたいのは、次の一点です。

経営者の健康問題は「個人の問題」では済まない

経営者には、従業員とその家族の生活を守る責任があります。
だからこそ、体調・認知・判断力の揺らぎが出たとき、それは“本人だけの話”ではなく、会社のリスク管理(ガバナンス)の話になります。

事業承継問題では「後継者育成」が語られがち。でも、その前に…

事業承継というと、多くの場合こう語られます。

  • 後継者をどう育てるか
  • 株式をどうするか
  • 相続・税務をどう整理するか

もちろんこれらは重要です。

ただ、現場で起こっているのは——
承継以前に、経営の“回路”が不安定になる問題です。

背景には、経営者の高齢化があります。

帝国データバンクの調査では、全国の社長平均年齢は2024年時点で60.7歳。上昇が続き、過去最高を更新しています。
中小企業白書(2025年版)でも、経営者平均年齢は60.7歳と示され、高齢化が前提条件になっています。

高齢化そのものは悪ではありません。経験は価値です。
ただ、これだけは言えます。

年齢が上がるほど、会社は「属人化」では守れない
健康面も、意思決定面も、“設計”で守る必要が出てきます。

さらに言えば、日本では高齢者の「認知症+MCI(軽度認知障害)」の有病率合計が、2022年時点で約28%という推計も示されています。
「珍しいことではない」前提で備えることが、リスク管理として合理的です。

「またいつもの…」で見過ごされるのが、一番危ない

身近な人ほど、こう言いがちです。

  • 「またいつもの…」
  • 「どうせ昔からこうだから」
  • 「年齢のせいだよ」

ここが落とし穴です。

職場では、社長が変化しても、周囲が“調整”して吸収してしまう。
特に社長が高齢化すると、秘書や幹部が「なんとか回す」力で、表面上は持ちこたえてしまうことがあります。

でも、それは「問題がない」ではなく、問題が見えにくくなっているだけです。

そして、見えにくいまま限界を超えると——
ある日突然、「辞任」「入院」「長期不在」として表面化します。

50代からの“経営安全運転”チェック(医療診断ではありません)

ここからは診断ではなく、経営のリスク点検です。
ポイントは「できている/できていない」ではなく、以前と比べて変化があるかです。
1年程度では変化はわかりにくいので「5年前と比べてどうか?」で見ていくとわかりやすいかと思います。

💡以下のチェックリストで該当する項目がいくつあるか、振り返ってみましょう。
該当する項目数に応じた「行動の目安」を確認してみてください。


㊟本チェックは医療診断ではありません。
 断定せず、会社が止まらない設計と安全確認を優先していきましょう。

受診のすすめ方:社内から言うと角が立つときは?

健康の話はデリケートです。
社内の人が直接言うと「人格否定」「権威への挑戦」と受け取られて、逆にこじれることがあります。

そこで現実的に効くのが、顧問(弁護士・税理士・社労士・監査役等)から、ガバナンスの一環として提案してもらうやり方です。

  • 「診断」ではなく、リスク管理・内部統制の話として言える
  • 本人にとっても面子が保てる(“会社のための健診”という位置づけ)
  • 社内に対立構造を作らずに済む

言い回しは、例えばこうです。

「経営者の高齢化も進んでいますし、意思決定の安定性はガバナンス上の重要項目です。定期健診の一環として、脳ドック(認知機能検査付きのコースも含め)も検討されると安心です。」

脳ドックは施設・コースで内容が違います。
認知機能検査(MMSE・HDS-R・MoCAなど)を組み込むコースもある一方、画像中心の簡易コースもあるため、項目確認が重要です。

本人に自覚がないとき

「言った/言わない」
「本人はそう言い張る」
「でも現場は困っている」

こういう状況では、感情論になりやすい。

だからこそ、周囲がすべきなのは「評価」ではなく事実のログをとることです。
目的は、責めることではありません。専門家に相談するための材料を揃えることです。

【ログのテンプレ例】

  • 日付/場面(会議・決裁・面談など)
  • 起きたこと(事実のみ。推測は推測と明記)
  • 影響(意思決定が延期、手戻り工数○時間、現場停止など)
  • エビデンス(議事録、メール件名、チャットログ、資料リンク)

このログがあるだけで、医療でもガバナンスでも、話が一気に進みます。

見過ごさない組織は、日頃の「対話」でできている

ここからが、IOTとして一番言いたいところです。

こういう問題が起きると、脆いのはどんな組織か?

それは——
社長が“雲の上の人”になっている組織です。

組織が大きくなるほど、社長は社員たちにとって遠い存在になりがちです。
一般社員は社長と話す機会がなく、現場の温度感が届かない。
幹部も「逆鱗に触れたくない」「波風を立てたくない」で、耳の痛い情報が上がらない。

結果として、盲点が増えます。
そして、変化が起きても気づけない。気づいても言えない。

逆に、日頃から多様な社員と接点があり、対話の回路が生きている組織は強い。

  • 多様な視点が上がる
  • 小さな違和感を早く共有できる
  • 社長自身も、現場から学び続けられる
  • 組織の“盲点”が減る

これは成長の話であると同時に、健康とガバナンスの話でもあります。
「対話」は、単なる仲良しのためではありません。
組織の異変に早く気づき、損失を最小化し、健全に成長していく好循環の源泉なのです。

経営者の健康は、会社の“公共インフラ”

後継者の育成が進まないんだよね…と嘆く前に、「会社が止まらない構造」を作る。
これが先です。
経営者にとって、自分の健康問題について周囲からアレコレ言われるのは正直不快なこともあるでしょう。
でも、経営者の健康は、組織にとって“公共インフラ”に近い。

だからこそ、本人も周囲も、見過ごさない。
そして、責めない。構造で守る。対話で盲点を減らす。

もし「うち、少し当てはまるかも」と感じたら
まずは会議と意思決定の型づくりや、組織の構造を整えるところから一緒に整理できます。

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